田中英夫先生との出会いと出版

企業人から大学の教授に赴任して、優秀な先生方と直接研究を共にする機会を得ることができました。その中で、田中先生との出会いは、私のその後の研究生活に大きな影響を与えました。田中先生をはじめて知ったのは、企業時代に、名古屋の大学で開催されたファジイ学会の大会でした。口頭発表でファジィ多変量解析について話されていました。多変量解析については大学院時代から因子分析のプログラム(デッドコピーをしただけ)を制作したこともあり強く興味があったので、どのようにしてファジィ化するのかに関心があり聴講しました。当時は、多変量解析の数学は難解なので応用側は知る必要がないというような風潮がありました。しかし、個人的には、多少とも知るべきと思っていました。
そのような遠因もあり、乳白の透明な淵の眼鏡を掛けた海外の研究者の雰囲気をもつ田中先生が、従来の多変量解析はこのような数学であるが、それをファジィ化する提案はこのようになると話されたのを聞き目から鱗でした。従来の多変量解析の数学の説明がとても明快でした。その後、これまで理解が難しかった多変量解析の解説書の内容が少しは苦労しましたが理解できました。なお、三年前の田中先生の退官記念講演で、若いころファジィ理論の提唱者のザデーの研究室に在籍し研究指導を受けていたことを初めて聞きました。
当時、デザインの分野で多変量解析が徐々に使われ始めたので、上記の理由から、拙著「多変量解析の考え方」(絶版になったので、拙著「エクセルによる調査分析入門」(2010)に内容が移植されています)を出版しました。対話形式の解説書で、漫画のイラストも入れていましたので、大変好評で4千部程度は印刷されました。その田中先生と同僚の教授になったときは信じられない気持ちでした。初めて直接会話をして、身近な話もさせていただきました。とてもフランクな先生で、テニスが上手なスポーツマンでもあります。数学的な考え方と説明もとてもシンプルで明快です。本当に理解している高名な先生はこのようにわかりやすく説明するのだと強く感じました。
企業時代の日本デザイン学会の研究会で、森典彦先生らとラフ集合をデザイン課題に応用しようと研究を行っていたのですが、我々はその理論の原著を読んだわけでもなく、また、新しい理論なので日本語の専門書(現在もありません、FSS2011で乾口先生と村井先生らに理論書の刊行を提案)もありませんでした。田中先生と話し、ラフ集合の専門家であることをはじめて知りました。田中先生にはポーラックのラフ集合の原著論文から教えてもらいました。また、その教え子の阪大の乾口教授(現在、日本での理論家の第一人者)が詳しいので紹介もしてもらい、合同でワークショップも開催しました。その成果として、日本で最初のラフ集合の入門書「ラフ集合と感性」(2004)をメンバーで刊行しました。以上の詳しい経緯の内容は拙著「ラフ集合の感性工学への応用」(2009.12)の第1章に書いています。
ラフ集合以外にもう一つ教わったのが区間分析です。これは中先生の提唱する手法で、デザインなどの感性的な課題の分析に適した手法です。詳しくは次回に説明しますが、今月上旬に田中先生らと一緒に執筆した「区間分析による評価と決定」が刊行されました。