「成熟拒否」という病を述べた「一億総ガキ社会」の本を読んで

先々週、札幌での学会に参加するために、羽田空港で購入した「一億総ガキ社会」(片山珠美著、光文社新書、2010)の本を読んだ。今日、学生らと接するとき、彼らの心の中が理解できないことが多く、その参考になるのではないかと新書を手にした。いつもの習慣で、本を手に取ると最初に奥付を見る。刊行の2ヶ月後に4版である。アマゾンのカスタマーレビューでも27件ある。本の題名を検索するとたくさんの読者のブログでの書評もある。それを2点ほど文末に添付する。大きな反響を与えている本である。
真偽は別にして、難しいテーマを明快な論理で説明している。その中で、スイス生まれの精神科医エリザベス・ロスが提唱した「死の五段階」(否認、怒り、取引、抑うつ、受容)からの論理展開は新鮮であった。つまり、ひきこもりは否認の段階でで、モンスターペアレンツやモンスターペイシェンツは怒りの段階で、依存症は抑うつの段階でとどまっていると分析する。マイケルジャクソンの自殺についての分析も興味深い。その際の薬(ドラッグ)の話題も大変勉強になった。
一方、私が学生の就職活動で感じていることを、本の中の67〜68頁に的確に解説している。長くなるが下記に引用する。なお、片山珠美女史は精神科医である。

「仕事がイメージと違う」と心療内科を受ける若者たち 心療内科を受診した際に彼らが訴える理由の中で最も多いのが 「自分の希望と実際の業務内容がかみ合わない」(というものである。) おそらく、就職前は「こんな仕事がしたい」「あんなふうに働きたい」と夢をふくらませていたのだろうが 現在の雇用情勢では、希望通りの職場に就職できるのはごくわずかだし たとえ運よく目当ての会社に入れたとしても、最初にやらされるのは雑用のような仕事である。
それゆえ、イメージとは違う現実を見て途方にくれる。「自分はこんなことをするために会社に入ったんじゃない」と。 イメージと現実は一致しないのがむしろ普通だが、それは受け入れられない。このギャップを埋めていくためには二つの選択肢しかない。 思い描いていたイメージに少しでも近づけるように努力して現実の自分を高めていくか それともそのイメージの方を少しずつ「断念」して現実を受け入れていくか、二つに一つだ。 もしくは、その両方をすることで、ある程度のところで妥協をすることが必要になる場合もある。
大多数の「普通の」人々は、後者の選択肢、つまり少しずつ「断念」しながら「現実適応」していかざるをえないことが多いのだが、それがどうしてもできない人が増えている。 これも、自己愛イメージと現実の自分とのギャップを受け入れられない「成熟拒否」の一面だと思う。
「あなたには無限の可能性がある」という幻想を教え込み 挫折や失敗などの「対象喪失」に直面させないことを重視してきた「けがをさせない」教育が 厳しい現実社会に耐えられない人間を数多く生み出すことになったのだと考えられる。

以上を、皆さんは、どのように感じますか。下記も参照してください。
http://yo-shi.cocolog-nifty.com/honyomi/2010/10/post-6121.html
http://blog.goo.ne.jp/zen-en/e/c135c038e646ae03e38de8dca2d906a4