『官僚の責任』を読んで

題目の著者の古賀茂明氏(経済産業省大臣官房付)を御存じであろうか。昨年10月の参議院予算委員会参考人招致を受けて出席し、政府の天下り対策や公務員制度改革を批判した。それに対し、仙谷由人内閣官房長官が「上司として一言…こういうやり方ははなはだ彼の将来を傷つけると思います」と発言し、それは「恫喝」と話題になったことで一躍有名になった。古賀氏は国家公務員制度改革推進本部事務局審議官として、当時の渡辺喜美行政改革担当相の下で公務員制度改革に取り組んだ。政権交替した民主党でその法案の成立が期待されたが、完全に官僚のサポタージュにあった民主党政権で棚上げになった。その彼が、5月に「日本中枢の崩壊」を刊行して、2月間程で20万部を超える大ベストセラーになった。如何に国民の官僚制度改革に関心があるか端的に示している。7月中旬には単行本でなく、多くの人に読みやすく安価な新書で題目の本が出版された。10日程度で増版されるという人気である。
この本は現在の官僚制度の問題点を明確にしている。しかし、その問題点はこれまで多くの政治評論家が指摘してきた内容とは大きく変わらない。だが、内部の東大法学部卒のキャリア官僚からの実例で説明されると、従来とは異なるリアリティがある。またこの本の優れている所は従来の批判だけでなく、このように改革すべきという具体的な提言も理路整然と後半でなされている。
読者としての所感だが、官僚組織をドラッカーのマネジメントの視点から整理すると、顧客が国民でなく省の上層部になっている。また、東大法学部に偏重した人材にも多様性がなく、さらに、コンプライアンス(情報公開)も希薄である。最も問題なのが、組織としてのイノベーションを促す機能が皆無である。昔から秀才が組織を駄目にするのは有名であるが、その典型的なのが官僚組織である。古賀氏が指摘しているように、官僚組織は無責任体制(人材の墓場)の互助会システムでしかない。本を読み終わってみると、近い将来、この官僚に任せておいて日本が本当に危ないことが強く感じられた。冗談でなく、公務員制度改革を実現するような国民運動を展開しないといけないであろう。特に若い人たちは他人ごとではない。その意味で、読みやすい本書を是非皆が読んで欲しい。なお、委細は「http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110701/plc11070111300015-n1.htm」を、さらに「http://twitter.com/#!/kogashigeaki」も参照ください。
追伸)最終章に記載されていた産業政策に関する著者の視点(経産省の官僚としての提言)は斬新なところが多く興味深かった。